EUは政治・経済で統一的なグループを作ることで、個々バラバラにやるより世界の中で地位を上げようってわけだと思う。究極的には「大ヨーロッパ国」みたいな統一国家になると、すごい大国になるから、現実はそこまでいかなくてもそれに近い状態にしようって目標だろう。
ユーロにしても、フランとかマルクとか別々の通貨を使うよりも統一することで通貨自体の地位を上げようとした。ドルに対抗する世界通貨を目指した。結局ドルには全くかなわないけど、それでも世界第二の通貨になったことは確か。
政治的にも各国がバラバラな方向を向いているより一致団結したほうが発言力が強くなる。軍事的にはNATOで協力していく。そんなふうに、ヨーロッパ統一じゃないけど「統一的」になれば強くなる。…という理想だったけど、ギリシャみたいに不都合な事実を隠してる国があると他の国も道連れになったり、移民政策とかではなかなか統一した意志を決められなかったりと、現実は理想どおりにはいかないよね。
これは私の勝手な見方で反論も多いんだけど、ヨーロッパっていうのは「パックス・ロマーナ」つまりローマ帝国への郷愁があると思うんだよ。
フランク王国も「ローマ皇帝」を目指した。神聖ローマ帝国も内実はバラバラでも理想はローマだった。その神聖ローマ帝国を滅ぼしたナポレオンも、ヨーロッパを統一してから「フランス皇帝」になったのはやっぱりローマ帝国の皇帝(=統一ヨーロッパの皇帝)になりたかったんだと思う。ヒトラーも「第三帝国」と言ったけど、その「第一」は神聖ローマ帝国のことだからね。ロシア帝国(ロマノフ朝)も、名目上、東ローマ帝国の後継者という立場をとった。
第二次大戦後、武力でヨーロッパを統一しようとするのはやめたけど、次は平和的に統一しようという気運になった。戦後しばらくしてEECを作って、そこからEC、EUと統一の度合いを高めていった。統一の度合いを高めれば高めるほど逆に各国の国益の衝突が起きやすくなるんだけど。
それでも、たとえば東西ドイツが統一したとき、統一ドイツの首都をボン(西ドイツの暫定首都)にするかベルリンにするかで議論が起きた。「どっちが合理的か」と考えると、ボンのほうがコストもかからなくてお得だったはず。でも、ドイツ人にとって、ドイツの中心はベルリンだというのがメンタル的に譲れない一線だった。理屈抜きに、ベルリンがドイツの首都でなければ統一する甲斐がないくらいに、コダワリがあった。フランス人もパリにこだわるだろうし、イギリス人のうちイングランド人もロンドンを捨てることはできないだろうと思う。
その点日本は、千年の都だった京都からあっさり東京に遷都したり、東京が地震で危ないとなると別の場所を探したりと、地理的な執着はあまり感じられない。日本人にとってコダワリは、特定の場所よりも「天皇」という存在に向いてるんだろう。
私は、ヨーロッパ全体の「心理的な故郷」はやっぱりローマだと思う。そして、「ヨーロッパは本来ひとつであるべき」という、理屈を超えた理想があるんだと思う。その大元が、ローマ帝国への郷愁じゃないかと。逆に言えば、イギリスはローマ帝国への郷愁がないからEUとも同化できないし、統一通貨ユーロよりもポンドを選ぶんだろう。イギリスはメンタル的にはヨーロッパの一員というより大英帝国という独立した勢力なんだよね。
まあ、実利的には、思想や文化、価値観を共有する近隣の国々が力を合わせたほうが国際的な地位が上がるから、ということになる。経済力も強くなるし。一方で、メンタル面ではローマへの郷愁。実利だけならイギリスだって共有してるけど、イギリスはメンタル面の動機が薄いから離れるんだと思う。