トランプは中国のみならず、EUとも貿易戦争を始めようとしている。
いくらアメリカが強くとも、世界を敵に回して勝てるわけがない。トランプの政策はどう考えても間違っている。アメリカ最大の貿易赤字相手国が中国なら、標的は中国のみに絞るべきだった。
トランプの貿易戦争の矛先は日本にも向けられている。さて、そこで日本はどうすべきかという問題に直面するが、日本も対米追従、トランプへの盲従を改めて報復攻撃に参加すべき、という論調が目立つ。しかしこれは違う。日本は少なくとも現状では報復に出ず、冷静に辛抱強くトランプと交渉すべきだ。
その理由は2つある。
1つは、アメリカの貿易戦争には敵が多すぎる。その事実はトランプ自身も自覚しないわけがない。大統領就任後、安倍はトランプと良好な関係を築いている。たとえそれが追従的とはいえ、安倍はトランプにとって貴重な味方だ。また、日本の経済規模は非常に大きい。対中、対欧で全面戦争に突入する時、対日でも戦争に入ればアメリカ経済が自滅する。
交渉というものは、相手が窮している時が一番有利な条件を引き出せる。日本は、アメリカが窮する今、蜜月を利用してトランプの顔を立てる代わりに、外交的見返りを受けるほうを選ぶべきだ。今後さらにトランプが窮すれば、TPP11のリーダーである日本が、アメリカをTPPに呼び戻しやすくなるかもしれない。あるいは北朝鮮問題での協力を引き出すこともできる。日本は「反米グループ」に加わるのではなく、米vs中・欧の間で「漁夫の利狙い」をすべきだ。
もうひとつの理由は、理屈はどうあれ現実問題、アメリカが潰れたら日本が非常に困ることだ。昔から、「アメリカがくしゃみをしたら日本は風邪を引く」、「アメリカが風邪を引いたら日本は肺炎になる」と言われる。対欧州はまだしも、米中貿易戦争で、アメリカの自滅で中国が勝ってしまったら一番困るのが日本だ。
今、アメリカが衰退して西太平洋の覇権を維持できなくなり、中国が勝って覇権を拡大したらどうなるか。中国の立場では、東南アジア諸国は吹けば飛ぶような存在で眼中にない。中国にとって最も目障りなのは日米同盟で、とりわけ、アメリカの後ろ盾で中国の拡大を妨げている日本が一番憎らしい。
アメリカが、対中、対欧で窮しているとき、日本が一緒になってアメリカを叩くことは、日本の安全保障上、自殺行為だ。アメリカに勝たせるまではしなくとも、負けないようにしなければならない。アメリカは対中に絞れば貿易戦争に勝てる。日本は、トランプと交渉し、標的を中国に絞るように説得すべきだ。経済で米欧が争って喜ぶのは中国であり、軍事でNATOに亀裂が入って喜ぶのはロシアだ。アメリカの貿易戦争は、アジアでは中国を、欧州ではロシアを利するだけだ。
日本はアメリカのポチと言われようが、我慢強く、アメリカと敵対しないようにしながらトランプと交渉すべき時だ。貿易で日本が「敵に回らない」ことがアメリカに助け船を出すことになり、その見返りを求めることができるし、アメリカが健全でいることは日本の国益にも必要不可欠だ。
トランプはことさら名誉欲が強く、自分を強く見せることへの執着が激しい。日本はそんなトランプに花を持たせて実利を得る外交をすべきだと思う。