ロシア軍はマリウポリの製鉄所の攻撃を中止した。
一度はバンカーバスターまで持ち出して攻撃したのに、それを本当に中止するのなら、米国防総省の見立てどおり攻撃しても落とせないと判断したのだろう。
そこで「兵糧攻め」に切り替えたという見方もある。
しかしどうだろう。巨大地下要塞はもともと長期間立てこもるために作るものだから、そこに食糧や水をあまり備蓄してないとは考えづらい。
どこの情報を信じればいいのかの問題はあるが、ロシアは製鉄所に3度も投降をすすめて、2度までは誰も投降せず、3度目に5人投降したとか。
ということは、可能性としてはこの5人が「要塞には食糧があまりない」という情報をもたらした可能性が疑われる。
力で攻めきれないロシア軍はそれを信じたいだろう。しかしその情報は嘘かもしれない。兵糧攻めで落とせると踏んで力攻めをやめたら、いつまで経っても落ちずに結局兵力が釘付けになり続けるということを狙ったアゾフ連隊側の戦略かもしれない。
力で落ちなくても、多くの民間人がそこにいる以上、ずっと爆撃音が響くだけでも訓練された兵士と違ってストレスに耐えられなくなる。たとえるなら大坂冬の陣の淀殿だ。アゾフ連隊側の最大の弱点は民間人の精神状態であろうから、それを解決するために、あえて兵糧攻めに転じさせる作戦かもしれない。
あるいは逆にロシア側の作戦かもしれない。兵糧攻めではなく、「落とせない城は無視して進む」という戦略もある。ただ、無視して進むと背後からおびやかされるので、要塞に閉じ込めておくのに必要な兵力だけを残して、本隊を東部戦線に回すという作戦が考えられる。
しかし本隊を回せば、当然マリウポリに残る兵力が脆弱になる。要塞を封鎖する兵力を残していったとしても、本隊がいない以上、そこに空からの攻撃や、対地ミサイル攻撃を受けたら、封鎖できなくなるかもしれない。
いずれにしてもプーチンの「マリウポリは制圧した」という宣言は「要塞に籠もって出てこない兵力は実質的に存在しないも同然」と見なせるから言える。しかしそう勝手に見なして痛い目にあうことも多いから、実際のところ「いないも同然」なのかどうか。
とにかく米国防総省のカービー報道官が「落ちない」と言ったのだから、少なくとも力攻めで落ちないことは確かなのだろう。もしも数日で兵糧が尽きたらこの要塞は最初から立てこもる準備ができていなかったことになる。