https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB094UE0Z00C22A8000000/?n_cid=SNSTW001&n_tw=1660509091&unlock=1
会員限定記事なのが残念。要するにBRICSやイランなどがドル経済から離脱しはじめているから、経常赤字国の米国はドル1強を保てなくなるという話。
もちろん永遠に繁栄する国もなければそんな通貨もない。米国と米ドルの覇権もいつかは終わる。しかし長期的にはそうでも、そう簡単にドル経済は揺るがないと思う。
最近弱ってきたものの、長く「有事の円」と言われ、日本円は安全資産とされ国際情勢が不安定になると円高になる傾向がある。日本政府は巨額債務を抱えているもののそのほとんど日本国内で消化されていることや、国全体としては巨額の対外債権国なので、日本円の信用はいまだ高い。
しかしコロナ禍の初期、世界経済がパニックになった時に買われた通貨は円じゃなかった。本来なら最も安全資産である「金」の価格が上がりそうなものだが(実際上がったが)、パニックがピークに達すると世界は金よりドルを欲しがった。貯金なら金かもしれないが、使うならドル。ドルでなければ国際的な決済が成り立たなくなり、ドルの需要が増した結果、アメリカはドル供給を拡大した。
コロナの前後に、「小さな有事の円」、「大きな有事の金」、「パニック時のドル」を見せてもらった。
「やはりドルは強い」と私は再認識した。
ユーロやポンド、日本円などを使う諸国はこれからも米ドルを基軸とするだろう。なら、米ドル離脱を考える中露などが、ドル離れによってドルの覇権を壊すことがあるのか。
私は短中期的には「ない」と考える。通貨のブロック化が起きると、世界中に経済不安が訪れる。不安が高まれば高まるほど、世界は比較的安定した「ドル」を求めるようになるからだ。世界がドルから離れること自体が経済に不安をもたらし、ゴムのようにドルに回帰させる力となる。
ドル中心の経済を米欧日で維持するとして、まあ仮にそれを「ドルブロック経済」と名付けよう。ユーロ圏もこっち側なので、「非ドルブロック経済」を作るとしたら人民元が中心になるだろう。だが人民元がドルの対抗馬になり得るのか。
記事の中で、中露が「ドルを使わない人民元・ルーブル貿易」を開始しただの、露印が「ルーブル・ルピー協定」を検討しているだの、BRICS諸国で通貨バスケット方式で新通貨をつくる試みが提案されただの言っているが、それらは米ドルのシェアの一部を食うことはあっても脅威になるとは思えない。
米ドルは一国の通貨だが、中露も露印もBRICSも、複数の国の複数の通貨をあわせて米ドルに対抗しようとしている。欧州のユーロは仏フランや独マルクを中心としてヨーロッパの主要通貨(英ポンドを除く)を統合して作られたが、米ドルを超えることはできなかった。ギリシャ危機の時にも目立ったが、複数の国家によって管理される統一通貨はつねに参加国の思惑の対立によって不安定であり続けるのだ。民主主義や自由経済という大枠において共通の価値観をもち、参加国同士が地理的に近く、EUの前身であるECの時代から長期間にわたる経済的な一体性をもち、社会情勢も比較的安定した先進国などで作った統一通貨ユーロさえ、ドルに対抗するより、ドルを補完する通貨になるのがせいぜいだった。
中国、ロシア、インド、ブラジルなどが組んでも、ドル覇権をおびやかす新通貨など作れる道理がない。
もちろん人民元は強力な通貨だ。しかし通貨の価値は国の信頼そのものと言える。ここでの信頼とは国家として米国と中国どちらが信じるに足るかということではなく、米国と中国どっちの経済が強固かということである。
米国はどの国よりも絶対的に有利な立場にある。それは地勢だ。米国は東を大西洋、西を太平洋にはさまれ、北はカナダ、南はメキシコと国境を接し、かつ世界最強の軍隊を擁しているので、地政学的にこのうえなく安全なのである。ミサイルが飛んでくる危険は否定できないがそれはどの国も同じこと。他国の陸軍に占領される可能性が限りなくゼロであるのが強みである。自国が攻められるかどうかは通貨の信頼において決定的な意味をもつ。
人民元がドルに対抗するとしても、ドルを超えることはない。そして、世界が戦争などの強い不安にかられた時、地勢的に安全で最強の軍事力をもち長い期間「1強」を守り抜いた米ドルしか、マネーの逃げ場がない。米ドルの「敵」はむしろ金やオイルなどの通貨外資産であって、不安定な世界になるほどに通貨間では米ドルが頼りとされる。
ドルからの逃避や、非ドル経済ブロックができることで、「平時のドル」は弱るかもしれない。しかし有事、特にパニック時のドル1強は揺るがないと私は考える。