『日本の外交立場が強くなる米中新冷戦』
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190606-00010005-wedge-int
一理はあるが楽観的に過ぎるな。
この記事の主張は概ねこんなものだ。アメリカは、中国と争うにあたり日本との同盟が重要になる。一方の中国は、日米共同と争うのは負担が大きいので日本との争いを避ける。結果、米中の争いによって日本の立場が強くなる。
早い話、米中の争いで、アメリカと中国の両方からラブコールを受けるのが日本だという話だが、楽観的すぎてそんなにうまくいくものかと思う。
アメリカにとって日本の存在が重要になるのはその通りだろう。しかし中国のほうは、どういう戦略を選ぶだろうか。
日本はアメリカ側の国で、中国にとって日米共同と争うのは負担が大きい。ここまでは間違いない。そこで、中国は別の選択をする可能性がある。
中国にとってアメリカは簡単に戦えない相手だ。しかも、日本はアメリカがなくては立ち行かないから、中国がアメリカを叩こうとすれば、日本は必ずアメリカに味方する。だからアメリカとは戦えない。
こういう時は、弱い敵から先に叩くのが中国流の兵法だ。つまり、日本を先に叩く。アメリカは、日本なしでも潰れる国じゃないので、やりようによっては、「アメリカに日本を見捨てさせる」ことも可能である。そして、日本という味方を失って弱体化した主敵アメリカを、後から叩く。
かつて天下を統一した秦帝国の「連衡策」である。そして秦は、最初に韓を滅ぼし、そのあと趙、そのあと魏を攻めた。一番の強敵である楚は後回しにして、楚に味方する弱い国から順次滅ぼしていった。
劉邦も、項羽と戦うとき、主敵の項羽に対しては防戦に徹しながら、配下の韓信に西魏、代、趙、斉と弱いほうから攻めさせて項羽を孤立させ、最後に項羽と決戦した。
三国志の時代の魏も、強い呉よりも先に弱い蜀を攻めた。
強敵を攻めるときは、いきなり本命と衝突せずに周辺から攻めて徐々に力を削ぐ、というのが中国の伝統的な戦い方だ。
中国にとって最善の策は、まず日米を離間させることで、それを目指すなら日本にラブコールをしてくる。しかし日本はアメリカべったりの国なので、離間策は成功しがたい。現状、アメリカは北朝鮮を中国から引きはがそうとして、あまりうまくいっていない。中国は、韓国を日米から引きはがそうとして、これは成功している。しかし、日本をアメリカから引きはがそうとしても、こっちはうまくいく算段ができないだろう。だとしたら、最善が無理なら次善の策。次善の策は、アメリカよりは弱い日本を先に攻めることだ。
中国が本気で日本にラブコールする時は、アメリカに対する敗北を認めたときであり、そうなれば日本に仲介役を頼んでくる。しかし中国にアメリカと争う意志のあるうちは、日本との関係改善は日米離間の策でしかあり得ず、それが奏功しなければアメリカより先に日本が標的になりやすい。
実際、中国はアメリカよりも先にカナダに圧力をかけた。これが中国流の兵法だ。今、中国がアメリカとの全面衝突を避けたとしても、それはアメリカが強いうえに、アメリカに味方する国が多いからにすぎない。
米中の争いで日本が双方から重んじられるという考えは、能天気に過ぎる。