自分が生まれてきた頃には、既に深海棲艦は存在していた。
彼等との戦争は何年続いているのか分からないのに、つい最近の出来事に感じてしまう。
多くの兵士は死んで、兵器も壊れていった。平和ボケで怠けた国はやっと目を醒まして、若い者は武器を持った。今、俺が乗っている兵器のお陰で一時は静まった海も、また暴れだしている。
魂に選ばれた少女達が海を駆け抜け、更に強くなった深海棲艦に砲を向ける。そして砲弾を撃つ。
こんな戦場、狂っている。
俺にはこの兵器さえ存在していれば良い。たかが人間に毛が生えた様な戦力で、深海棲艦には勝てないんだ。この戦争に人間は勝てない。きっと海は彼等の物になる。
だったら、俺はせめてこの兵器が鼓動を続けている最後の瞬間まで、ずっと側にいたい。
それだけで良かったのに、彼女達は俺から空とこの兵器を奪った。
Hawと、この空を。
スレおめでとうございます(`・ω・´)
楽しみにしてます⊂( ˆoˆ )⊃
俺はHawに乗って、深海棲艦を沈める。俺の生きる道はそれだけだと思っている。いや、そうであってほしい。死ぬときはHawと共に海に堕ちたい。俺はこの兵器に乗れる事が誇りに思う。
皆は、俺の事を狂っていると言うが、中佐は、彼だけは俺の事を認めてくれた。
Hawのパイロットなんて、戦闘機のパイロットになるより遥かに簡単で、ならず者しかいないと世間は批判する。
だから何だ。俺は現にこうしてHawに乗っている。
脚部と背中の単発のブースターが叫び、速度422km/mでこの海原と、大空の栄え目を飛んでいる。ただ一直線に炎と排煙が尾引、自動操縦で、目的地まで向かっている。
俺は、船には高くて、戦闘機には低いこのHawにしか許されたこの絶景を、Hawと共に見ている。
今日が最後だ、少し寄り道でもしよう。
俺はオートパイロットを解除し、操縦桿を握りこんだ。
曙『くたばれクソ提督』
~別れ~
帰投ルートから離れ、特殊機動を行って差仕振りのGを味ってきた。内蔵と骨が押し潰される様な感覚が、悲しい程に懐かしく感じる。
そして目の前のモニターに映る滑走路が、Hawとの別れを確実に語っていた。
速度をゆっくりと落とし、時速90km/m下回った頃に機体を空中停止。背部の単発ブースターは消火し、脚部のブースターの推力のみで機体を支えている。A/B無しでは、30tを越える体重を浮かしきれない。
徐々に滑走路に着地し、全ブースターの消火と共に歩行システムの起動。曲げている膝を伸ばし、目の前の格納庫へゆっくりと歩み始めた。
滑走路を踏み砕くかのような音が鳴り響く。オートパイロットの正確な操縦と、アビオニクスの無理矢理な機体制御で歩くその姿は、命の無い人形の様な見た目だろう。
開いていく格納庫の扉を抜け、やがてハンガーに背もたれた機体は、鈍く光った三つのモノアイを閉じた。
コクピットから出て、ワイヤーを使ってHawから降りる。
自分の足で地面に足をつけた途端、横から差しこむ夕方の焼けた陽が差し込む。
オレンジ色に輝く空に、それに別れを告げるかのように閉じたアイシャッターは、俺との別れとも感じる。
……この時が、別れじゃない。いつかまた、Hawに乗る時は来る。
スクラップになる運命である目の前の機体に、俺はそっと敬礼をした。
短い敬礼。酸素マスクとフライトヘルメットを外し、脇に抱える。
格納庫を抜け、焼けた道を歩む。コンクリートを赤く焼く陽射しが俺の目に突き刺さる。雲一つ無く、綺麗にオレンジ色に染まる空を眺めながら基地まで向かう。
俺がこの耐G服を着るのも、今日で最後だ。エアバッグでキツく首が固定されている感覚も、腰に下げた特殊拳銃の重さも、一ヶ月もすれば忘れてしまうのだろう。
そう思いながら歩んでいると、基地のエレベーターが見えてきた。近くには一人の男が立っている。
中佐だ、平時というのに何をしているのだろうか。俺は最後の偵察任務を終えたばかりというのに。
そして俺に気付いたのか、ゆっくりと此方へ歩んでくる。
「どうだ、少尉。残心無く別れ切れたか。」
と、中佐。
「悩む事じゃない、また乗れる日が来るさ。お前が提督に正式に着任して、鎮守府を持つようになったらHumanoid aviation weaponsを一機を贈ってやる。」
「中佐。皮肉だが、その頃は荷物運びか建物の柱くらいしか使い道はないさ。」
俺は何故こんな出世を迎えるのだろう。少尉から少佐まで昇格なんてあり得ない。
俺はただHawに乗って、空を飛べればそれで良かった。指揮官になるとか、贅沢をしようとか、俺は望んでいない。
「荷物運びか、あの巨体ならどれくらいまで運べると思う?」
中佐の冗談の問い掛け。
「1tは軽いだろう。」
それへの俺の答え。中佐は軽く笑った。
このあと、基地帰ってする事は上部への出撃報告。次は式だ。
中佐は俺の昇格を喜んでいるが、俺は喜んでなどいない。俺は嫌だ。絶対に嫌なんだ。
Hawという俺の道標を、失うのが怖い。
わお!
すれおめでっす
超期待
式を終え、他の将校達に囲まれながら船の方まで案内される。明日は近くの海域にて戦闘があるらしく、向かうなら今からがではないと時間が無いという。
荷物は式の最中に全て船に入れられたらしく、後は俺が乗り込めばいつでも出港出来るとのこと。
肩や、胸に着いてる紋章に記された階級。中尉、大尉、どれも皆、俺よりも歳上に見えた。だが、階級上の関係で敬語で話し掛けてくる。
「こちらです、どうぞ。」
指された席に座る。敬礼をして出ていった将校は30歳を越えていたと思う。どんな思いだろうか、自分よりも若い者が偉く、歳上の自分はそれに頭を下げなければならないという屈辱。俺はそんなの耐えられない。
彼等には非常に悪い事をした。謝罪しても謝罪仕切れない程に。
何故自分はこの様な運命になってしまうのだろう。突然の海軍の提督として着任しろと言われ、今、こうして自分が管理する事になる鎮守府へ向かっている。
中佐に聞いてみても、人が足りてないからだ。としか返事をしてくれない。
何故そんなに人が足りない。指揮官が自殺でもするのか。わざわざ空軍の中から人選しなくても良かった筈だ。
そして、なりより。どうして俺達から空を奪った艦娘と会わないといけないのだ。
憎しみと苛立ち、怒りの感情を抱いて、俺は唇を噛み締めた。
~彼女達~
その鎮守府に着いたのは11時頃だ。灯りは無く、静まり返っている。それはそうだ、普通の軍隊なら既に消灯の時間だ。
船から降り、埠頭に足を着ける。いざ自分の鎮守府に立ってみたと思えば、特に感情は出てこない。この鎮守府は前任の提督が使用していた鎮守府で、俺はそれの御下がりだ。
保有していた艦娘の戦力が高く、棄てるには勿体無かった。だが、艦娘を仕切る前線任務なんて誰も簡単に引き受けはしないだろう。
「さぁ、どうぞ。この御荷物を持って先に執務室へ。」
将校からショルダーバックを渡される。
ずっしりと重みのあるバックを肩に掛け、鎮守府まで歩みだした。
こんな時間なのだから静かなのは当たり前だ。草木と波の音しか聴こえてこない。
巨大な本館の扉を開けてみるも、軋んだ音が鳴り響くだけで誰も歓迎などしてくれない。だが、それで良かった。
将校から渡された地図を元に、執務室の位置を確認する。廊下を二つ越えた先の突き当たりだ。下に置いたショルダーバックを担ぎ、その場所まで足を進めた。
少し足が、重たい。