ほどほどに薄暗くした舞台。セットはなく、床にバミリが貼っており、観客にもぼんやり視認できる。
スウェットを来た中年の男が上手から歩いてきて舞台中央でゆっくり立ち止まる。顔は下手に向いたまま。
中央につくと男のスポットライトの光度とマイクの音量が5秒間かけて徐々に上がる。
「……かるか? 坊主。昔の小説とか詩で自然の風景の描写とかいまいちピンとけえへんねん。わいらが知ってるのは磯の香りやなくてレジャー施設の香りやねんな。たとえ人が何もいじくってなくてもや、香りが変わんねん、坊主、分かるか? コンテクストが変わればテクストの指すところも変わるっちゅうのは、そう……」
喋りながら男は下手に歩いて行き、スポットライトだけが舞台に残される。