Book.1-Page.1「魔導士になるんです」

2016/04/06 09:53:42

戻ってきた少年の目の前に広がっていた景色はあまりにも残虐なものであった。
村の建物は跡形もなく破壊されており、炎が村を覆っている。よく目をこらせば手に剣を持った者などがいる。
しかし、誰も動かない、悲鳴をあげない。
つい先程までは「平和」を絵に書いたようなこの村が、十分、いや五分程で地獄絵図へと化した。
だが、少年の目に涙はなかった。
少年は生まれた時より孤独だった、父を知らず、母は少年を産み落とし間もなく死んだ。少年は孤児院にすら預けられる事は無く、親戚の家で長い間、過酷な労働を強いられてきた。今日も既に日が落ち、魔物が出る危険地帯の森に薬草を取りに行かせられた。それが逆に自らが助かった最大の理由である訳だが。
少年は炎が燃え盛る村の中にゆっくりと足を踏み入れ、宝石商の家があった場所へと行き、宝石商の家の瓦礫をかき分け、一つの首飾りを手にとり、首にかけた。
そして・・・・・・・・・・

                         ◆

「何か今日、新しい子が来たんだって」
孤児院の子供達は新しく来た少年の話題で持ちきりだった。
先日、ロイハール王国付近の村が何者かの襲撃を受け、壊滅した事件があった。その唯一の生き残りであるその少年が孤児院に送られて来たのだ。
孤児院では将来、大きくなった時の為に長い時間をかけて教育を行う。
・・・しかし、その少年は一週間足らずでこの孤児院を出る事になる。
「俺は、魔導士になる」
孤児院に入り、院長と始めて対面した時の少年の言葉であった。
その言葉通り、少年は壊滅した村にあった宝石類を親戚からの遺産として売り払い、その金で魔導学校へと入学した。
およそ子供のなす事とは思えないこの出来事を始め、少年の軌跡は王国中に知れ渡る事となる。