1:J◆kZDFwAt8do@Core
2015/10/26 13:32:00

自分が生まれてきた頃には、既に深海棲艦は存在していた。

彼等との戦争は何年続いているのか分からないのに、つい最近の出来事に感じてしまう。多くの兵士は死んで、兵器も壊れていった。平和ボケで怠けた国はやっと目を醒まして、若い者は武器を持った。今、俺が乗っている兵器のお陰で一時は静まった海もまた暴れだしている。

魂に選ばれた少女達が海を駆け抜け、更に強くなった深海棲艦に砲を向ける。そして砲弾を撃つ。こんな戦場、狂っている。
俺にはこの兵器さえ存在していれば良い。たかが人間に毛が生えた様な戦力で、深海棲艦には勝てないんだ。
この戦争に人間は勝てない。きっと海は彼等の物になる。だったら、俺はせめてこの兵器が鼓動を続けている最後の瞬間まで、ずっと側にいたい。

それだけで良かったのに、彼女達は俺から空とこの兵器を奪った。
Hawと、この空を。

2:J◆kZDFwAt8do@Core
2015/10/26 13:34:04

俺はHawに乗って、深海棲艦を沈める。俺の生きる道はそれだけだと思っている。いや、そうであってほしい。
死ぬときはHawと共に海に堕ちたい。俺はこの兵器に乗れる事が誇りに思う。

皆は俺の事を狂っていると言うが、中佐は、彼だけは俺の事を認めてくれた。Hawのパイロットなんて、戦闘機のパイロットになるより遥かに簡単で、ならず者しかいないと世間は批判する。

だから何だ。俺は現にこうしてHawに乗っている。脚部と背中の単発のブースターが叫び、速度422km/mでこの海原と、大空の栄え目を飛んでいる。ただ一直線に炎と排煙が尾引、自動操縦で、目的地まで向かっている。

俺は船には高くて、戦闘機には低いこのHawにしか許されたこの絶景を、Hawと共に見ている。
今日が最後だ、少し寄り道でもしよう。俺はオートパイロットを解除し、操縦桿を握りこんだ。

3:J◆kZDFwAt8do@Core
2015/10/26 13:35:58

~別れ~

帰投ルートから離れ、特殊機動を行って差仕振りのGを味ってきた。内蔵と骨が押し潰される様な感覚が、悲しい程に懐かしく感じる。

そして目の前のモニターに映る滑走路が、Hawとの別れを確実に語っていた。
速度をゆっくりと落とし、時速90km/m下回った頃に機体を空中停止。背部の単発ブースターは消火し、脚部のブースターの推力のみで機体を支えている。A/B無しでは、30tを越える体重を浮かしきれない。
徐々に滑走路に着地し、全ブースターの消火と共に歩行システムの起動。曲げている膝を伸ばし、目の前の格納庫へゆっくりと歩み始めた。

滑走路を踏み砕くかのような音が鳴り響く。オートパイロットの正確な操縦と、アビオニクスの無理矢理な機体制御で歩くその姿は、命の無い人形の様な見た目だろう。
開いていく格納庫の扉を抜け、やがてハンガーに背もたれた機体は、鈍く光った三つのモノアイを閉じた。
コクピットから出て、ワイヤーを使ってHawから降りる。自分の足で地面に足をつけた途端、横から差しこむ夕方の焼けた陽が差し込んだ。

オレンジ色に輝く空に、それに別れを告げるかのように閉じたアイシャッターは、俺との別れとも感じる。
……この時が、別れじゃない。いつかまた、Hawに乗る時は来る。
スクラップになる運命である目の前の機体に、俺はそっと敬礼をした。

4:J◆kZDFwAt8do@Core
2015/10/26 13:38:34

短い敬礼。
酸素マスクとフライトヘルメットを外し、脇に抱える。格納庫を抜け、焼けた道を歩む。コンクリートを赤く焼く陽射しが俺の目に突き刺さる。

雲一つ無く、綺麗にオレンジ色に染まる空を眺めながら基地まで向かう。俺がこの耐G服を着るのも、今日で最後だ。エアバッグでキツく首が固定されている感覚も、腰に下げた特殊拳銃の重さも、一ヶ月もすれば忘れてしまうのだろう。

そう思いながら歩んでいると、基地のエレベーターが見えてきた。近くには一人の男が立っている。中佐だ、平時というのに何をしているのだろうか。俺は最後の偵察任務を終えたばかりというのに。
そして俺に気付いたのか、ゆっくりと此方へ歩んでくる。

「どうだ、少尉。残心無く別れ切れたか。」

と、中佐。

「悩む事じゃない、また乗れる日が来るさ。お前が提督に正式に着任して、鎮守府を持つようになったらHumanoid aviation weaponsを一機を贈ってやる。」

「中佐。その頃は荷物運びか建物の柱くらいしか使い道はないさ。」

俺は何故こんな出世を迎えるのだろう。少尉から少佐まで昇格なんてあり得ない。
俺はただHawに乗って、空を飛べればそれで良かった。指揮官になるとか、贅沢をしようとか、俺は望んでいない。

「荷物運びか、あの巨体ならどれくらいまで運べると思う?」

中佐の冗談の問い掛け。

「1tは軽いだろう。」

それへの俺の答え。中佐は軽く鼻で笑った。

このあと基地に帰ってする事は上部への出撃報告。次は式だ。中佐は俺の昇格を喜んでいるが、俺は喜んでなどいない。
俺は嫌だ。絶対に嫌なんだ。Hawという俺の道標を、失うのが怖い。

5:J◆kZDFwAt8do@Core
2015/10/26 13:40:29

式を終え、他の将校達に囲まれながら船の方まで案内される。
明日は近くの海域にて戦闘があるらしく、向かうなら今からがではないと時間が無いという。
荷物は式の最中に全て船に入れられたらしく、後は俺が乗り込めばいつでも出港出来るとのこと。

肩や、胸に着いてる紋章に記された階級。中尉、大尉、どれも皆、俺よりも歳上に見えた。だが、階級上の関係で敬語で話し掛けてくる。

「こちらです、どうぞ。」

指された席に座る。敬礼をして出ていった将校は30歳を越えていたと思う。
どんな思いだろうか、自分よりも若い物が偉く、歳上の自分はそれに頭を下げなければならないという屈辱。俺はそんなの耐えられない。

彼等には非常に悪い事をした。謝罪しても謝罪仕切れない程に。何故自分はこの様な運命になってしまうのだろう。
突然の海軍の提督として着任しろと言われ、今、こうして自分が管理する事になる鎮守府へ向かっている。中佐に聞いてみても、人が足りてないからだ。としか返事をしてくれない。

何故そんなに人が足りない。指揮官が自殺でもするのか。わざわざ空軍の中から人選しなくても良かった筈だ。そして、なりより。どうして俺達から空を奪った艦娘と会わないといけないのだ。

憎しみと苛立ち、怒りの感情を抱いて、俺は唇を噛み締めた。

6:J◆kZDFwAt8do@Core
2015/10/26 13:41:56

~彼女達~

その鎮守府に着いたのは11時頃だ。灯りは無く、静まり返っている。
それはそうだ、普通の軍隊なら既に消灯の時間だ。船から降り、埠頭に足を着ける。

いざ自分の鎮守府に立ってみたと思えば、特に感情は出てこない。この鎮守府は前任の提督が使用していた鎮守府で、俺はそれの御下がりだ。
保有していた艦娘の戦力が高く、棄てるには勿体無かった。だが、艦娘を仕切る前線任務なんて誰も簡単に引き受けはしないだろう。

「さぁ、どうぞ。この御荷物を持って先に執務室へ。」

将校からショルダーバックを渡される。ずっしりと重みのあるバックを肩に掛け、鎮守府まで歩みだした。
こんな時間なのだから静かなのは当たり前だ。草木と波の音しか聴こえてこない。巨大な本館の扉を開けてみるも、軋んだ音が鳴り響くだけで誰も歓迎などしてくれない。

だが、それで良かった。将校から渡された地図を元に、執務室の位置を確認する。廊下を二つ越えた先の突き当たりだ。下に置いたショルダーバックを担ぎ、その場所まで足を進めた。

少し足が、重たい。

7:J◆kZDFwAt8do@Core
2015/10/26 13:44:55

軋む廊下、灯りの無い暗闇の道。制服の胸ポケットに入っているフラッシュライトを点けて足を進める。
窓から射し込む光など無く、静まり返った廊下は足音しか響かない。

若干の恐怖を感じる廊下を地図通りに歩み続けると、やがて突き当たりに扉が現れた。足元を照らしたライトを少し上に向けると、まるでいきなり出現したかのような扉が現れる。
その扉のドアノブに手を掛けて捻る。鍵は掛かっていない。

扉をゆっくりと開けていくと強い光が溢れ、暗闇に慣れていた俺の目を突き刺す。それと同時に物音が鳴って人の声も聞こえた。

「……Who are you?」

英国の方の訛りのある滑らかな英語で俺に質問してきた。帽子を取り、軽く一礼をしてから彼女を見つめた。

「夜遅く申し訳無いです。私は先程こちらに着き、今日からここの鎮守府の提督として活動させて頂きます。」

自分よりも歳上に見えたので敬語を使った。彼女はラフな敬礼をし、椅子に座った。

「sorry…空軍から転任された提督デスネー?」

空軍から、そうか。確か鎮守府には空軍としか伝わって無かったと聞いていた。
確かに空軍は空軍だが、Hawを保有する人型航空戦術軍団は空軍と独立した一つの軍隊の様な状態だった。規律は他に比べると多少緩く、上下関係がそこまで強くなかったが、異常なまでのパイロットの練度や技量があり、上層部や指揮官の能力も非常に高かった。
だが、素行の悪い隊員がちらほら見掛け、殴り合いとなったり問題が起こるのが珍しくなかった。その為、周りの軍団や他の軍隊からは評判が悪く、Hawのパイロット達で編成された特殊部隊は、ならず者の吹き溜まりと軽蔑される事も多かった。

それでも戦力は手から離せない確実なパイロット達であった為、他の軍隊よりも待遇は良かった。

それがまた、他の者達から反感や批判を食らう原因にもなっているのだが。
「はい、少尉です。」

空軍式の敬礼。彼女は笑顔で海軍式の敬礼で返してくれた。

8:J◆kZDFwAt8do@Core
2015/10/26 13:46:38

俺はバッグを棚の近くに置く、彼女は俺に近付いてしゃがんだ俺を覗きこんだ。
茶色の長い髪が揺れ、よくみると側面に髪を髪で結んだような塊がある。
「何でしょうか。」

俺がそう言うと、彼女は小さく笑って、また椅子に座った。バッグに拳銃や重要な書類が入ってるのを確認し、チャックを閉める。荷物の整理は明日で良いだろう。

流石前任の提督が最近まで使用していただけあって部屋の状態は良かった。執務用の机や棚が揃っており、筆記道具の準備さえ整えばいつでも仕事が出来る状態だ。
そうして部屋を見渡していると、椅子に座った彼女が声を掛けて来た。

「部屋は綺麗デスカー?前任はladyだから衛生面はちゃんとしてたヨ。」

前任の提督は女性だったのか。成る程、だからこんなに小綺麗なんだな。俺はバッグから出した拳銃を内ポケットに入れながら、立ち上がって彼女の質問に答えた。

「仕事道具が多く残ってますね。」

そう言いながら時計を見ると、12時を回ろうとしていた。
こんな夜中まで起きていたら明日に響く、自室に戻ろう。

「そろそろ自室に戻ります。シャワーは何処に。」

「入渠室にあるヨ。案内するネー?」
「いえ、結構。」

会釈しながら俺は執務室を出た。

9:J◆kZDFwAt8do@Core
2015/10/26 13:47:51

地図を元にシャワー室まで向かう。そこまで遠くない。暖簾を潜り、質素とまではいかないが、ごく普通の脱衣所だ。ロッカーを見る限り今は誰も使っていない。

それはそうだろう。もう12時を過ぎている。制服と下着を脱ぎ、ロッカーの隅に置く。ほのかな蒸気の温かさを感じながら、俺は浴場の扉を開けた。
今まで見たことの無い大浴場だった。シャワーだけで済ませたので浸かる事は無かったが、艦娘達はあの浴場で心を癒していると言われれば、納得のいく様な気がする。

それよりも、着替えを持ってこないで風呂に入ってしまった。どうしたものか。いくらなんでも裸で自室まで戻ると言うのは危険だろう。況してや、自分以外は女性なのだから。だといっても、ここで待って風邪を引く訳にはならない。
もう一度ロッカーを隅から隅まで探してみると、誰のかは分からないが男用の物と思われる服と下着が置いてあった。誰だろう、こんな事をしたのは。将校達だろうか。
だが、Howのパイロット上がりがこんな気のきいた事はしないだろう。とにかく、今は自室まで戻らなければ。誰のであろうと今は仕方ない。

下着と青いジャージを着込み、脱衣所の暖簾を潜ろうとすると、後ろから高い声が聞こえた。
カメラのシャッター音と共に。

「青葉、見ちゃいました!」

10:J◆kZDFwAt8do@Core
2015/10/26 13:49:26

唐突過ぎた事に俺の頭は混乱している。見ちゃいました。だと?
腰に手を伸ばすも、拳銃は制服の内ポケットの中だ。しくじった。

暖簾をゆっくりと潜り、声の元を確認する。そこには、大きめのカメラを持った少女がいた。

「……誰でしょうか。」

俺は問う。きっとこの鎮守府の者だろう。
しかし、何をしていたんだ。その少女は笑顔で俺を見つめて、元気な声で応えた。

「いやぁ、すみません。新任の提督が来たってもんで、我慢出来なくて。」

そうか、既に知る者には知られていたのか。
だとするとこの少女は将校達の連れ子か何かか。だが、見た様子はそうとは思えないが。

「始めまして!司令官。青葉ですぅ!一言お願いします!」

青葉、そうか。船の名前と言う事は艦娘か。俺の様な奴を盗撮するなんて趣味の悪い気持ち悪いのもいるもんだな。

「消灯の時間ではないのですか。」

「もぅ!新任の司令官は真面目ですねぇ。こんな時間こそ、スクープの魂が燃えて目が醒めるってもんですよ!」

何を言っているんだ。お前がやっているのは犯罪じゃないのか。呆れたものだ。こんな奴等が深海棲艦と戦争しているだって。
相変わらず不気味とも言える笑顔を向ける青葉と名乗った彼女。相手になろうとは思わないし、相手にされたくない。早く切り抜けよう。

「そうですか。」

そう言いながら暖簾を潜り、早々とその場から去る。こんなふざけたような、中学校の様な所で働かないといけないのか。規律も、風紀もHawパイロット達より悪いじゃないか。

やはりこんな戦場は、狂っている。

「新しい提督はクール系イケメン……ふふっ、これは大スクープの大騒ぎですよぉ。」

「これは新聞製作が捗りますねぇ!」

11:J◆kZDFwAt8do@Core
2015/10/28 12:56:13

~対面~

指を壁にぶつけて擦りむいた痛みで目が覚めた。自然と壁際に寄ってしまっていたようだ。隅に居ようとするのは不安の表れだろうか。
小指の擦り傷から、小さく溢れていく血。近くにあったティッシュで押さえながら俺はベットから立つ。
鎮守府に来てから良いことが起きない。昨日の夜中も盗撮紛いの事はされるし、今日も最悪の目覚めだ。まぁ、警報が鳴り響いて叩き起こされるよりかはマシだが。

血で汚れたティッシュをゴミ箱に捨て、時計を見てみるとまだ7時を越えていない。
今日はきっと着任式が行われるだろう。中佐がそう言っていた。無機質な部屋で佇むが、やはり今日から自分はパイロットではなく提督として生きる事になるんだと、改めて実感してしまう。

そう思い更けていると、俺の気持ちを掻き消すように扉を叩く音が鳴り響いた。

「提督よ、起きているか?」

気質と凛とした声が聞こえる。二回叩かれたノックの音と共に。
こんな時間に、わざわざ司令官の顔を拝みに来る者がいるのか。
ジャージのチャックを胸元まで閉めながら、俺は扉をゆっくりと開いた。

12:J◆kZDFwAt8do@Core
2015/10/29 12:39:17

「すまない、まだ寝間着姿だったか。」

眼鏡を触りながら此方を見下ろした女性。背が高く、褐色肌だ。
副司令官か何かだろうか。手には書類が挟まれたボードを持っていた。

「別に……どうしました。」

「うむ、申し遅れたな。大和型戦艦二番艦の武蔵だ。」

そう言った長身の彼女。よく見ると艦娘らしい派手な格好をしていた。
すまない、と軽く引き下がると、彼女はボードに挟まれた書類から一枚のプリントを取り出した。

「今日の午前8時半から着任式を行いたい。全艦娘が集まる。」

「夜中にここに着いて、寝不足なのは分かる……出れそうか?」

差し出されたプリントを受け取り、軽く目を通す。俺が思っていた様な面倒な事はしないみたいだ。
そのプリントを半分に折りたたみながら俺は返答する。

「大丈夫です。」

そう言うと、彼女は自然な笑顔を見せた。

「そうか、それは嬉しい。皆も速く顔を見たくて騒いでいるからな。」

「それと、敬語など使わずに気楽に話しかけてくれ。頼むぜ。」

俺は頷く。それを確認したのか、それでは、と言って扉を閉めた彼女。

昨日はエレガントな女性に、朝は凛とした姉御か。武蔵と名乗った彼女は、きっと俺が着任するまでは副司令官としてここを仕切っていたに違いない。
初めて頼もしいと思える艦娘と面と向かったが、やはり、彼女達が兵士なのか、というと頭を傾げてしまう。

まぁ、着任式といっても自己紹介をする位だろう。先ずは準備をするべきだ。

13:J◆kZDFwAt8do@Core
2015/11/03 12:21:26


もう冷たい風が吹く季節。いつの間にか手が冷えてしまう。そんな雲の多い空の下で、数十人の艦娘が整列している。
グラウンドに並んだ彼女達は、隣同士で私語をする者や、興味の無さそうに空を見上げる者もいる。まるで小学生の集会の様だ。

「こちらへ。」

眼鏡を掛けた長い黒髪の女性に案内され、列の先頭に置かれた台を上る。
1m程の高さから見下げ、俺はマイクに近付く。
眼鏡を掛けた女性が凛々しい声で

「気を付け。」

と、叫んだ瞬間、列が大きく動いたように全員が姿勢を正した。

真っ直ぐ乱れの無いその列を見て、やはり軍隊は軍隊か、と何処か安心をした。
敬礼し、返礼の後、俺はマイク向かって言った。

「今日、当鎮守府の艦隊を指揮します提督となります。宜しく御願い致します。」

またも敬礼、艦娘達は返礼する。
眼鏡を掛けた女性の休めの言葉で、彼女達はやっと緊張がほどけたような安堵の表情になった。

俺は台を下りると、側にいた女性から声を掛けられる。

「少し固まりすぎだ。堂々と威勢を張れよ。」

武蔵だ。
確かに俺は今日からここを仕切る提督だ。だが、だからといって威張ったり慢心をするなんてない。

俺は、望んで来てはいないのだ。俺はパイロットだ。本来この場にいて良い存在じゃない。
だから俺は上司と言う立場を活用しようなんて思わない。俺はただの、お前らと変わらない一兵士だ。

その言葉を返事はせず、俺は執務室に向かった。

14:J◆kZDFwAt8do
2015/11/04 12:39:58

そして執務室に着いた俺は、無駄に高級そうな座り心地の悪い椅子に座りながら手元の書類に粗方目をつけた。
殆どが艦娘の現状報告の書類で埋まっていた。こんなものなのだろうか。

様々な条約の最終確認の書類を優先的に始末したが、まだ艦娘の名前すら知らない俺に全艦娘の状況報告とは苦なものだ。
これも提督として成すべき事なのだろう、考えていたよりも仕事が多い。ペンを握る位なら操縦桿を握っていたかった。

先ずは今の内に終わらせる書類から片付けようと、棚を漁っていると扉を叩く音が響く。返事をする間もなく、入るぞ。と言いながら扉を開いてきた。

「どうだ、初仕事は。気が乗らないか?」

また、彼女か。武蔵だったな。
堂々と机まで歩み、書類を持ち上げると俺を見つめた。

「この書類は私が片付けておく。心配するな。」

そういってボードに挟んだ書類は、艦娘達の現状報告書だった。
あれは何の為に必要なのだろうか。現状況の精神状態や、体調の調査だろうか。確かに、出撃する際には必要かもしれないが、今日はまだ着任当日だ。まずは机に置かれた仕事が最優先だ。

そう考えていると、また戻る、と言って執務室から出ようとしている武蔵に疑問を抱いた。
何故、こんなに干渉するのだ。副司令でもこんなに関わっては来ない。

「待て。」

足を止めた彼女は、こちらを振り向く。

「どうした?提督。」

「お前は、お前は何なんだ。」

率直な質問だと俺は思ったが、彼女は不思議そうに頭を傾げた。

15:J◆kZDFwAt8do
2015/11/05 14:34:13

その後、小さく口元が微笑し、こう返される。

「敬語を使わなくて良いとは言ったが、初めての親しい言葉がそれか。」

酷い嫌味だった。
そうやって人を煽り立てる様な所は、やはりまだ兵士として確立していない。
見下され、軽蔑されたかの様な嫌な言葉だった。

「私、武蔵は前任の提督の秘書艦をやっていた。別れ際の時に、次の提督にはちゃんと鎮守府の事を教えてやれって言われてな。」

「……さて、すまない。とりあえず今の状況では私が秘書艦だ。出来る範囲の事は必ず尽くすぜ。」

然り気無く眼鏡の位置を整え、そして出ていった彼女。
何が、秘書官だ。偉そうに干渉して来て、ふざけた事を言うな。

一体、俺はこんな場所で精神を保っていられるだろうか。全てが、俺にとっては不快に感じる。




「……提督。」

扉を閉めて、そっと呟いた私。少し厳しく当たりすぎてしまっただろうか。

今度の提督は男だ、前任のように同じ女じゃない。気軽に話し掛けているつもりだが、あの如何にも嫌悪している表情を見る限り、嫌われてしまっただろうか。
一見、背の低い優男に見えるが、やはり死と向き合ってたパイロットというだけある。

可哀想で、虚しい目をしている。

16:J◆kZDFwAt8do
2015/11/08 11:45:23

~艦隊指揮~


机の上で済ます事が出来る書類は、全て終わらした。案外、楽なものだ。
だが、こんな生活がこれからずっと続くのかと思うと嘔吐感がしてくる。Gで押し潰された内蔵の比じゃない嘔吐感だ。

そう思いながら窓に寄り掛かり、ずっと青空をみていた。
これから本格的に秋に入る。海に関係する仕事は厳しくなってくる。
それでもまだ、太陽が仄かに暖かみを放ち、俺を見下していた。


「失礼する。」

武蔵の声、それと共に響く扉の開ける音。
もたれながら、彼女の方を振り向く。横腹にはボードを挟んでいた。

「どうした提督よ、黄昏て。」

そういってボードから書類を取りだし、机の上に重ねていく。積まれた書類を整頓すると、こちらを向いた。

「そうだ、提督。ドックを案内しようか?」

この鎮守府の地図はある。案内して貰わなくても結構だ。
と、言いたかったが、こんな空気の中できつく返す事は無い。

「その必要は無い。」

そういって俺は、壁に掛けられた海域の地図を見る。
前任の提督が書き込んだであろう、様々な矢印や、線、記号などが記されてあった。
ふと武蔵が俺の側まで近付き、微笑しながら喋りかけてきた。

「第一艦隊は既に編成している。どうだ。鎮守府海域でも散歩させてみるか?」

第一艦隊は編成済み、それはいつでも出撃は可能という事か。
俺を見つめる彼女。眼鏡から覗く凛とした瞳が、俺に突き刺さるような気持ちがする。

一時の沈黙の後、武蔵から話し出した。

「…よし、第一艦隊を紹介しよう、その気なら今日でも出撃は出来る。秘書官の俺がしっかりと補助をするからな。心配は御無用だ。」

こちらの返事を待たずに、彼女は俺を置いて執務室から出ていった。

17:J◆kZDFwAt8do
2015/11/08 16:32:40

一時。いや、かなりの時が過ぎた頃に、扉が開いた。

「はじめまして、吹雪です。よろしくお願い致します!」

と、言いながら俺に敬礼する少女。それに続いて、扉から並んで人が入ってくる。

「あの…軽巡洋艦、神通です。どうかよろしくお願い致します……。」

華奢そうな長髪の少女が、怯えているように体を固まっていてる。

「こんにちは、高雄です。宜しくお願い致しますね。」

その次に、明るそうな短髪の女性が挨拶をした。

「始めまして。航空母艦、赤城です。宜しくお願いしますね。」

赤と白が目立つ着物を着た女性も続いて挨拶をした。後ろから武蔵が部屋に入り、俺の方へ向かってくる。
側に近寄り、腕を組むとこういった。

「すまない、残りの二人がまだ来ていなかったか。もうじき来るはずだ。少し、待っていてくれ。」

今、目の前にいる初対面の彼女たち。いや、朝礼の着任式で一度顔を会わしている事にはなるのか。どちらにしろ、彼女たちの名前すら俺は聞いたことが無い。

「ふふっ、近くで見ると、思っていたより若いのですね。」

そう言って近付いて来たのは、確か高雄と名乗った艦娘だ。
背は俺よりも高い。だが、武蔵と比べるとまだ同等の視線で喋れそうな気はする。

そして無反応の俺に、一つ小さく笑った。


「そろそろ来るみたいだ。」

「……足音。」

その足音を聞いて、神通と名乗る艦娘は察したかのように扉から離れていた。

「……。」

今は足音だけが、聞こえる。だが、その音が強く響いてくると同時に黄色い叫び声が聞こえてきた。


「バーニングッ!」

18:J◆kZDFwAt8do
2015/11/09 17:01:54

この声は聞いたことがある。昨日の夜中、淑やかに聞こえた訛りがある声だった。
その声と大きな足音と共に、扉を突き抜けて飛び付いてきた影。俺に向かってきた影から庇う様に武蔵が俺を突き飛ばした。

「ラァァァヴ!!…って、武蔵ー?」

武蔵の上半身にがっしりと掴まった彼女は、首を傾げていた。
打ち付けた肩をさすりながら俺は立ち上がり、その飛び付いてきた彼女をよく見ると、やはり昨日の夜中に執務室にいた女性だった。

「全く…前任と同じ感覚で接するな、驚くだろう。」

なだめるように武蔵が彼女から離れた。

「oh!sorry……テートク。」

俺に頭を下げる彼女だが、俺が感じているのはそこじゃない。
昨日はあんな大人しそうな人間が、目の前の様に暴れていた事に違和感を感じた。
昼と夜で気持ちが違う。という事もあるだろうが、何より、接し方も態度も丸っきり変わっている。
常識的に考えると、いきなり飛び付いて来るなんておかしい行動だ。

もしかすると深海棲艦との戦闘で、精神や、または等の状態に異変を侵しているのではないか。と、考えても良い。
現にHowパイロットにもパニック障害に近い精神疾患や、実際に判断されて戦線を離れた者もいる。そう考えると、やはり艦娘という存在は深海棲艦と対等して戦うには問題があるのではないだろうか。

どの世界、どの時代においても人間が勝つのではない。
兵器が人間を勝たせるのだ。だとすれば艦娘は、つまり人間が兵器に対抗するなど、実に愚かという事だ。
戦争は兵器という存在があるからこそ、人間が勝利できる。

どちらにしろ、現状は彼女達しか深海棲艦に大きなダメージを与える事が出来ない。
兵士が戦場の華になるなど、随分と夢満ちた現実になったのだと感じる。


「あぁ、心配するな提督よ。」

武蔵は眼鏡を直しながら俺の方を振り向いた

「こいつは一度親しくなれると思った奴には一気にスキンシップが大胆になる。私達からすればいつもの事だからな。」

それに対し、昨日の夜中に執務室にいた女性は頬を膨らませて反論した。

「もぅ!変な言い方しないでヨー!」

19:J◆kZDFwAt8do
2015/11/15 16:27:10

掴みかかろうとしている彼女を軽く流す武蔵。それを前にいつの間にか彼女達の後ろに誰かが立っていた。
そして眠たそうに髪を掻きながら歩いてきた

「みんなおっはー、遅れてごめーん。」

怠そうな挨拶をしながら俺の前に立った。緑の長髪を揺らし、左手を腰に当てるとこちらをまじまじと眺めて口元が歪んだ。

「初めまして、最上型重巡洋艦の3番艦の鈴谷だよ。ふふーん、以外とイケメンじゃん。」

そう言うと隣に立っていた武蔵が頭を抱えた。
鈴谷と名乗った彼女は、そんな武蔵を見るなり軽く会釈した。

「全く……前任と同じ様な態度で接するなよ。困ってるいるだろう?」

「へへ~、良いじゃん。なんか優しそうだし。」

彼女はそう言うと背伸びをしながら後ろに然り気無く作られていた列に並んだ。
そして武蔵は、椅子に座り、机に頬杖をついている俺の前に立って腕を組むと威勢のある声で語りだした。

「今回、ここへ呼んだのは遊びでも何でもない。そう、出撃についてだ。」

気の弱そうな少女が武蔵に質問するように喋った。

「出撃…ですか。確かこの編成は、前任の提督が最後に……。」

「そうだ、別にバランスが悪い訳でもないからな。そのまま編成を変えずに作戦を考えさせてもらったよ。」

と、武蔵。そのまま武蔵は続ける。

「それで、出撃する海域は鎮守府海域への警備だ。」

それに対し、鈴谷と言った筈の女性が不満そうな声をあげる。

「えー。そんなの散歩と変わんないじゃん。」

机に少し寄り掛かった武蔵は、微笑みながら言葉を返した。

「ふっ、まぁそう言うな。所謂チュートリアルって奴だ。なぁ?提督よ。」

そういって俺の顔を見つめた。

20:J◆kZDFwAt8do
2015/11/16 16:18:38

俺は俯いてその問い掛けに応じる。彼女は、眼鏡を指で整えて寄り掛かった机から離れる。

「出撃は10時だ。それまでに出撃準備を行い、司令室に集合しろ。以上だ。」

武蔵が一喝するように声をあげると、整列した艦娘達は返礼し、一人ずつ敬礼して部屋から出ていった。
そして肩を力を抜いたように武蔵は溜め息をつく。

「ふっ、色々と面倒な奴から多いが、こうやって愉快で楽しい奴等ばっかさ。」

眼鏡を触りながら彼女は続ける

「……さあ、出撃準備だ。提督よ、付いてきてくれ。」

そう言って彼女は俺の手をつかんで、俺が椅子から下りるなり優しく歩いて手を引いた。

21:J◆kZDFwAt8do
2015/11/20 15:21:14

扉を抜け、廊下を歩きながら彼女は語り出す。白い髪を小さく揺らしながら迷い無く足を進めている。

「何ヵ月ぶりだろうなぁ、こうやって提督と歩くのは。」

何処か寂しげに呟いてきた。俺は握られている手を離すと、彼女は立ち止まってこちらを向く。

疑問と驚きが混ざった表情が映った後、すぐに口元が上がって優しい笑顔になる。
俺はその笑顔を横に、昨日、目にした地図を思い出しながら彼女を置いて歩く。
何歩が歩むと後ろから肩を掴まれるが、軽く振りほどいて彼女を見つめた

「すまない……強引に手を握られるのは嫌だよな。」

「どうも前任と同じ感覚が残っている様だ。気を付ける。」

眼鏡の位置を整えながら、俺を横切った。
俺はその後に素直についていく事にした。

何回か角を曲がった頃に司令室に到着した。
扉を開けて中に入ると、既に二人の艦娘が待機しており、一人は真剣に海域の地図を眺めていた。

「真面目だなぁ、神通と赤城は。良い事だぞ。」

髪の長い弓を持った女性が振り向いて返事をした。
それに気付いて隣にいた少女もこちらに礼をした。

「ふっ。提督よ、元はパイロットなのだから司令室を見るのは初めてではないだろう?」

喋りかけてくるも、俺は無視してテーブルに近付いた。

22:J◆kZDFwAt8do
2015/11/23 15:08:14

海域の地図には予想される敵艦隊の位置とこちらの艦隊の進行ルートが記されていた。誰がこんな進行ルートと編隊を組んだかは知らないが、空軍から見るとボロがありすぎる。

武蔵も俺の横で図を見ていると、扉が開いて次々と艦娘が部屋に入ってくる。

「全員揃ったようだな。では今からブリーフィングを始める。」

武蔵はそう言いながら凛々しい顔付きに変わる。
腕を組み、壁に掛けられた地図を指に指しながら解説を始めた。

「今回は新任の提督に艦隊指揮の基本をチュートリアルする為に、この鎮守府海域を巡航してもらう。」

「ルートと編制はこの通りだ、この海域は最近深海棲艦は目撃されてはいないが、雑魚が闇討ちを仕掛ける事もある。その時の予想される奇襲ポイントはこの通りだ。」

そういって図に記された点を指差し、解説を続ける

「気を抜かなければ対したものじゃないさ。質問は。」

腕を組み直す武蔵。どうも気が抜けているというか、やはり警備だからいつもより気が入ってないだけか。
山程の疑問が浮かび上がる中、気になっている疑問を浮かべ、俺は手を挙げた。

「ん……おぉ、提督よ、何だ?」

「制空権は、どうなる。」

刹那、部屋の空気が冷たくなった。
それを切り開くように失笑する鈴谷。

「大丈夫だよ提督。ここら辺空母なんか見たことないしさぁ。」

立腹する気持ちを抑え、俺は頬杖をつく。
それを見た武蔵は察したのか、眼鏡を整えて腕を組むのをやめた。

「……以上、出撃準備だ。解散!」

23:J◆kZDFwAt8do
2015/11/26 16:12:03

武蔵が一喝し、艦娘達は部屋から出ていった。
これから彼女達は戦場に出向く。最前線じゃないにしろ、多少の生命の危険がある場所へ今から向かうのだ。
それなのにこの気持ちは何なのだろう。Hawパイロットが言えたものではないが、気が抜けているような感じがする。

だが、冷静に考えれば所詮は警備だ。Hawパイロットが行う最前線への偵察とは違う。俺達に重ね合わしてみれば、これまで経験を積んで来ているが、いきなり警備なんて遊びのような任務を受けるとしたらどうだろうか。
きっと殆どのパイロットは嫌がるだろう。

静まり返った司令室に残された武蔵と俺。武蔵は振り向くなりこちらへ歩いて来る。

「……海域での彼女達の行動は無線と、必要とあらば偵察機から連絡が来る。」

「どんな状況になるかは運次第だ。提督足るもの、艦娘が出撃したならば常に司令室にいるべきものだな。」

俺は返す。

「それが当たり前だ。」

武蔵は小さく微笑むと、分かってるじゃないか。と言いながら俺の頭を撫でてきた。
鬱陶しくて払うが、それでも子供を褒めるかのような目をやめない。

嫌になった俺は、無線機から何か連絡が来るまでは俯いておくことにした。
俺は今、立腹しているのだろう。

24:J◆kZDFwAt8do
2015/11/28 14:28:32

~戦闘~



「第一艦隊、旗艦及び艦隊全て出撃準備完了しました。」

元気のある少女の声が無線の無機質な音と混じって司令室に響く。
武蔵は無線機を取り、返答した

「よし。鎮守府海域を巡航し、警備。撃退可能な敵勢力を発見次第撃退せよ。復唱。」

「了解、鎮守府海域を巡航して警備。撃退可能な敵勢力は発見次第撃退する。復唱終了。」

「そちらの状況に異変、又は報告すべき状況に陥ったなら即こちらへ連絡せよ。通信終わり。」

無線機を置く武蔵、このやり取りは流石軍隊といったところか。
俺は機器の集まっている大型モニターに近付き、映されたレーダーを確認する。計6つの熱源反応が鎮守府から離れていくのが確認できた。

「次からは提督がやるのだぞ。良いな?」

いつの間にか隣に近付いていた武蔵に耳元で囁かれる。
頷いて、もう一度モニターに俺は目を向けた。




さしぶりの海原。気持ちよい冷たさではなくなってきた水飛沫を浴びながら私達は進行ルートを滑走していた。駆逐艦の私が先頭に立ち、旗艦として艦隊を命令するのも久しい事だった。
後ろを振り向くと、単縦陣に並んだ編隊が並んでいるのが見える。

「吹雪さん?」

後ろにいる赤城先輩が私に声を掛けた。

「あっ、大丈夫です!」

「ふふっ、さしぶりの出撃だから、気を抜かないようにね。」

「はい、私もそう思ってました。頑張りますね。」

赤城先輩は一つ微笑んでくれた。
私はそれに軽い敬礼をし、正面を向いた。

25:J◆kZDFwAt8do
2015/11/29 15:38:33

足を緩めず、頭の中に記憶した進行ルートに従ってただ滑走する。さっき後ろを見たときはまだ鎮守府が目に映っていたと思う。
見慣れたようで見慣れていない果てない海原の水平線を眺めながら、水飛沫を浴びる

そろそろ第一目標地点だったはず。私は、殆ど勘に任せた感覚で停止座標を思い浮かべて速度を落とした。

「こちら吹雪です。第一目標地点に到達しました。」

無線機で通信を送る。直ぐに提督の声で返事が返ってきた。

「状況に異常が無ければそのまま巡航を続行。最終目標地点に到達次第、帰投せよ。」

「了解しました!」

無線機を切り、後ろにいる赤城さんに偵察機を発艦させてもらう。
数機の偵察機が編隊を組みながらずっと空の向こうへ飛び立っていった。

数十分が過ぎ、遠くから返ってきた偵察機が見てきた情報は特に異常は無く、熱源反応も無かったと赤城さんは言った。

「次は最終目標地点に向かいます!」

最後部の金剛さんが合図を出すと同時に、私は滑走を始めた。

今日は初めて提督が私達を指揮するんだから、少しは格好いいところ見せないとは思ったが、警備任務でそういう場面になる事はないだろう。
今はあまり何も考えずに奇襲だけを警戒してただ一直線に足を進めた。

26:J◆kZDFwAt8do
2015/12/19 18:08:54

水飛沫が飛び散って手先が冷たくなる中、私達はやっと最終目標地点に到着した。
立ち尽くすが、やはり何も気配は無い。ただ穏やかな波の音と鋭い風の音が鼓膜を響かせる。

やはり警備は警備だ。偵察とは違う。拍子抜けとはいかないが、これは仕方がない。
私は無線機取り出す。

「最終目標地点に到着。現状、異常は発見出来ず」

提督の声が返ってくる。

「こちら指令室。こちらもボギーはキャッチしていない。作戦目標を達成。奇襲に備えて帰投せよ。」

ボギー?一体何の事だろうか。

了解。と返事をすると、隣にいた赤城さんがボギーについて説明してくれた。
空軍の用語で、正体不明機を意味するとのことだ。
だが何故提督は航空用語なんて使ったのだろう。海軍になる前は空軍にいたのだろうか。
もしかしたらHawのパイロットかもしれない。興味深い、帰ったら聞いてみよう。




旗艦から返事の後、俺は無線を切った。すると横から武蔵が小突かれる。

「おいおい、ここは空軍じゃないぞ?」

何を言うか、海軍でもボギーという用語は使う。艦載機を乗せた空母等はな。

俺は味方信号が送られている熱源が、一列に帰投しているのを見るなり、どこか緊張が解けた気になる。いつもは前線にいる自分だが、いざ指揮をとるとなると思ったよりも忙しく、大変なものだと実感した。これならHawに乗って前線を飛んでいた方が良い。

俺は画面に映るレーダーを眺めて、思わずため息をつく。殆ど何もしていないが、疲れた。

「帰ったらカレーパーティだな。」

唐突に武蔵が俺に言った。カレーがどうしたのだ。

「ふふっ、警備を終えただけでは豪華過ぎるな。だが、初の艦隊指揮を考えれば充分なパーティだ。」

「なぁ?提督よ。」

あまり興味も無い問い掛けに頷く。
小さく微笑んだ彼女は、無線機をとった。

「今日はカレーパーティだ、早く帰ってこい。」

嬉しそうに伝える彼女。それに返ってきた返事はとてもパーティを迎えれそうな雰囲気ではなかった。

「砲撃されました!現在赤城さんが偵察機を発艦させて発射元を捜索しています。」

武蔵の目が変わった。

「敵勢力を確認次第、こちらに情報を送れ。」

「了解!」

27:J◆kZDFwAt8do
2015/12/24 17:30:55


不意に私の左肩に直撃した砲弾。大口径ではない、きっと駆逐艦程度の砲撃だろう。
そう察した私は砲弾が向かってきたと思われる方向に構えた。

「偵察機を発艦します。」

赤城さんはそう言って艦載機を発艦。編隊を組みながら飛んでいく偵察機を私は眺めた。

「まじぃ……?」

と、警戒する鈴谷。

「でも奇襲は失敗ですね。ふふっ。」

と、余裕を見せた高雄。皆も臨戦状態に入っている。

一時の沈黙。小波が響くこの刻を無線機の通信が破った。

「今夜はカレーパーティだ、早く帰ってこい。」

無線機から聞こえた武蔵の声。私はそれに真剣に答える。

「砲撃されました!現在赤城さんが偵察機を発艦させて発射元を探索しています。」

と、答える私。

「敵勢力を確認次第、こちらに情報を送れ。」

武蔵さんも真剣な声調になる。

「了解!」

無線機をきって、また一時の沈黙が始まる。
今は待たなければ、赤城さんの偵察機を信じるしかない。

28:J◆kZDFwAt8do
2016/02/06 17:32:52

緑色の影が戻ってくる。風を切りながら赤城さんの甲板に着艦する。
私を砲撃した存在を確認したとのこと。敵勢力は駆逐艦イ級一隻。
赤城さんは自分の艦載機で爆撃すると言って、三機の爆撃機を発艦させた。
暫くして赤城さんが撃破を報告。私達は帰投ルートに戻って鎮守府へ戻るのみだ。
警備に手を抜くとそれが命取りだ。だが、改めて再び出撃してみると、過去の自分が凄く懐かしく感じる。
飛び散る水飛沫の中、私は冷えてきた手に吐息を当てた。




「第一艦隊!帰投しました!」

今、私の目の前に吹雪を先頭に第一艦隊の皆が立っている。
それを見ている提督は相変わらずポケットに手を入れ、姿勢の悪い格好のままだ。表情を見ても言葉を発しようとしてるとは思えない。
私は疑問に思う。何故、彼はこんなにもコミュニュケーションを拒むのか。
確かに彼は例の兵器のパイロットだ。本来ならここにいるべき者ではないのだろう。
だが、そんな事は私達にとってはどうでもよい。現に、私は彼を歓迎している。
確かに、この鎮守府の中には彼の事を快く思わぬ者もいるだろう。だが、そんな事はこの私が許さない。やっと私達を再び導いてくれる人が戻ってきてくれたのだ。私達はそれに感謝しなければない。
としても、いくら私達が答えても、彼が答えてくれないなら話にならないが。

もう一度横を見ると、彼は机の上の書類に視線をやっていた。
彼女たちの事は興味ないのかと思えば、視線を彼女たちに変えて言葉を発した。

「皆。今日はもう休め。」

簡潔な一言。彼女たちはどう返せば良いのか分からない表情だ。

「出撃を終えたのだし、今日は休んでも良いと言ってるのだぞ。さぁ、早く戻れ。」

私が補足を付け足す。彼女たちは各自挨拶をして執務室から出ていく。
何故だ、何でそんなに無愛想なのだ。
私には、分からない。